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◾︎自伝的書籍「A Behind The Film of LIVING LEGEND」第0話「プロローグ」無料公開◾︎

2016年08月23日

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prologue by 318


「KOHHを裏で転がしているのはリョウくんなんでしょ?」
 KOHHと仕事をするようになって、よく囁かれる言葉だ。それも、KOHHを厳重に管理し、あたかも俺が指示してやらせているようなニュアンスで。これは残念ながら事実ではない。なぜ残念ながら…なのか。それは、そもそも俺がKOHHの才能を器用にコントロールなどできていないからだ(そうしようとも思っていないわけだが)。一緒に制作している以上、相手が誰であれ影響を与え合うのは自然なことだとしても、それ以上でも以下でもない。大体、このプロローグを綴っていることが元々の俺のプランにはなかったことで、ある意味では俺がKOHHをコントロールできていないことを証明する不測の事態なのだ。どういうことか?


 KOHH自身がKOHHを演じる物語。


 当初『住まいは川沿い(仮)』というタイトルの映画のプランは具体的に進んでおり、あとは撮影を待つのみだった。予算も決定し、制作はハリウッド進出を目指すアメリカの若手の映画作家たち。
 タイトルが示す通り、シーンは隅田川上空から始まる。隅田川は東京都北区の岩淵水門で荒川から分岐し、最終的には東京湾に流れ着く。花火大会が有名な東京の下町を象徴する川だ。その川沿いに林立する12棟からなる豊島五丁目団地を左手に見てゆっくりと川沿いを空撮し、カメラは豊島五丁目団地の先にあるKOHHの実家の公団を捉えるーー。
 映画である以上、内容は通常の取材では話せないことまで盛り込むことができる。元ホストだったKOHH、失恋の痛手を被るKOHH、ドラッグ体験で未知なる扉を開くKOHH…
 KOHHはなぜ、どのようにKOHHになっていったのか?


「やっぱり、今の自分が昔の自分の役をするのは違和感感じます」


 ある日、撮影の日程を具体的に決めようという打ち合わせで、KOHHが難色を示す。
「だいぶ前から擦り合わせてきてるつもりだけど、いま言われてもな…」
 マジで言ってんの? これが俺の本音。だが、この段階での俺の仕事は「そこをなんとか」とKOHHを懐柔し説得することではない。本人に高いモチベーションがなければいいものができるはずがない。
「OK、バラそう。やりたくないことをやってもしょうがないしな」
 少し申し訳なさそうな態度を滲ませるKOHHを前に、俺はそう答える。気持ちは変わるものだし仕方がない。いいものを作る。あくまでもそれが最優先事項だ。だとすれば、ここで代替案を出すのが俺の仕事になる。


「映画を本にしよう」
 俺は映画製作のプランをバラし、30分経たないうちにそう提案した。ここで誤解がないように付け加えておきたいのは、それは「KOHHの自伝本」でもなければ、「KOHHのインタビュー本」でもないということ。KOHH自身がKOHHを描き出す物語ーー内容はあくまで映画を本にしたもの。そうである以上、描けないことはない。ノンフィクション書籍のように何かをボカす必要はない。
 この「映画を本にする」プランに対し、KOHHは「いいかもしれない」と同意する。こうして、プランAは急遽プランBに切り替わる。この段階で、それがどのような本になるのか、具体的に見えているわけではない。プランBがなんであれ、それでもKOHHが「いいかもしれない」と思えたものは作品になる。KOHHの作品はこうして生まれる。KOHHはただ「いいかもしれないもの」を作るだけだ。KOHHはそういうアーティストであり、それは出会った昔から変わらない。


 俺はmixiでKOHHと知り合い、電話で話すとKOHHの住まいは俺の実家のすぐ近くということがわかった。
「もともとレコーディングしてたところがあったんですけど、そこができなくなっちゃって」
 KOHHはそんなことを言った。当時KOHHはまだ18歳だ。この年齢だけで俺は正直断るつもりだった。あまりに経験がない場合はそれまでも断ったこともあった。俺はスタジオをやっているわけで、ラップ教室をやっているわけじゃない。
「北区のどこなの?」
 特にこれといった意図はない。のちの命運を分けたのは、きっと世間話のようなこの雑談だった。
「王子です。王子神谷です」
 俺の実家は隅田川を挟んで足立区の新田。王子神谷まで歩いて10分程度。すぐそこじゃん……
「…曲を聴かせてよ。デモとかあるの?」
「あります」
「じゃあ一応それを持って、スタジオ来なよ」
 俺はそう言っていた。なぜそんな気になったかと言えば、当時俺の地元にはヒップホップ関係のやつが、そもそもほとんどいなかったからだ。ラッパーは後輩のY’sくらいしか思い浮かばない。ことの始まりはただ近所だったから。思えば本当にただそれだけのことだったのだ。


 そして、俺はKOHHと初めて出会う。伸びたバネが頭に張り付いたようなジェリーカール・パーマをかけ、ニューエラのキャップをかぶった色黒のKOHH。
(うわ、やっぱり変なの来たぞ)
 Eazy-Eのような風貌のKOHHを前にした、それが俺の第一印象だった。


 本名はチバユウキ。詳しい事情は知らないが、早くに亡くなった父親の名前を名乗って“KOHH”。


 この時のことで、ひとつ覚えていることがある。
「自信はあります」
 KOHHがそう言ったことだ。
 言ったねぇ……。
 そうは言っても、デモを聴いた俺の印象は、歌は上手いし音感もいい。倍音で声質もいいと思った。ただキーが異様に低く、ちょっと暗い。その程度のことだった。この時、俺はKOHHに特別な才能を感じていなかった。それを感じるのは、まだずっと先の話だ。正直に告白すれば、俺はKOHHの才能に気づくのがかなり遅かったのである。
 だが、とにかくこの日をきっかけにKOHHは俺のスタジオに毎週来るようになった。それも運送屋のバイトが休みの週末に必ず。通常4万円取るスタジオ代は2万円にした。未来の可能性を差し引いて…という計算が働いて半額にしたわけではない。地元の後輩とわかり、18歳のKOHHからそんなに金をもらうのが忍びなかったからだ。それにしたって毎週の話だから月に8万円。年齢を考えれば楽なはずがない。ものになる存在のほうが圧倒的に少ないこの世界で、なんの保証もないのにKOHHのペースは、はっきり言って無謀だった。
 それでもKOHHはスタジオに来るのをやめない。そして、事態は無謀なKOHHの現実にさらに追い討ちをかける。


 いつものようにレコーディングにやってきたKOHHは、地下にあるスタジオの見馴れた鉄のドアを開けて、こう言う。
「ハイエース、突っ込んじゃいました」
「…マジで?」。
 脱法ハーブの煙が充満する運送屋のハイエースで、信号待ちの車に追突したとのことだった。車のフロントが大破し、給料から月々修理代が差し引かれることになったという。おまえ、どうすんだよ? KOHHの才能に気づいてない俺が思ったことは、ただ救いのない日常の連鎖だーー。




















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